Self-Efficacyと聞くと、かなり馴染みの薄い英単語に聞こえてしまいますが、ここはひとまず「自信」でかたづけておきましょう。まず、このSelf-Efficacyを高めるための4つの要素を紹介します。
- Past Performance(過去の体験)
- Vicarious Experience(代理的経験)
- Verbal Persuasion(口頭による説得)
- Physiological State(生理的状態)
さて、このように自信が高まったアスリートは、思考、行動、感情などの面で変化が見られます。まず、自信が高まれば、自分の能力や状況についてポジティブに捉えられます。モチベーションもだいぶ変わってきます。自信が高まったアスリートはより難しいことに挑戦しようと思えます。そして、その課題をクリアするために努力をするようになり、その努力も根気よく続けるようになります。自信が高まれば、自分の成功は自分の実力があるからだ、努力をしてきたからだと捉えられるようになり成功体験によってますますモチベーションが高まりますが、自信があまりないアスリートは自分の成功を運がよかったからだとか、相手がミスをしたからだ、と捉えるようになり、成功体験をしてもなかなか行動に変化が現れません。自信が高まれば、もちろん感情も安定してきますし、また何かに挑戦しようという気力も芽生えます。こうして、自信が高まることで思考、行動、感情の面に変化が起これば、パフォーマンスにもいい影響を及ぼすことが期待出来ますね。
さて、理論はわかったけど、実際どうやってこの理論を使えばいいの?という疑問がわいてくる頃でしょうか。ここからが理論に基づいたメンタルトレーニングを出来るかどうかの腕の見せ所です。まずは効果的な思考法を身につけましょう。この理論の一番大きな柱である「過去の成功」を体験するためには、ゴールを設定することが有効でしょう。それも、結果ではなくてプロセスに着目したゴールです。なぜならプロセスというのは結果に比べて、自分の努力次第で改善することが出来るからです。つまり自分のコントロールの及ぶ範囲だということです。例えばバッティング練習で10球のうち7球ヒットを打とう(結果)、というのと7球芯に当てよう(プロセス)というのではどこが違うでしょう?ヒットというのは、仮にいい当たりを打っても野手に捕られてしまってはなりません。つまり、目標未達になってしまいます。それでは、せっかくいい当たりをしてるのに、自信を高めることが出来なくなってしまいます。しかし、「バットの芯に当てる」というプロセスに注目することによって、外的要素(野手など)に影響されることが少なくなり、自分のパフォーマンスの精度の向上→目標達成→自信の向上ということになるわけです。
次に、自分の中で試合で行うパフォーマンスについてのリハーサルを充分にしておきましょう。つまり、自分の中で試合と全く同じ(または限りなくそれに近い)状況で「成功」を体験することで、試合での自信が高められるということです。実際、練習メニューをいかに実践に近い状況で出来るかっていうことも大きな鍵でしょう。ここテネシー大学のフットボール部の練習で、スタジアムの歓声の音を練習中にスピーカーから流しているのを見たことがあります。彼らは本番では10万人の観客の前で試合をしなければいけません。こうした準備が、本当に「試合のため」の準備だと思います。イメージトレーニングも有効な手段です。これは、自分が試合で発揮したいパフォーマンスを繰り返しイメージすることによって、「試合での成功体験」を身近に体験することが出来ます。過去に実際に成功したシーンを思い返してイメージするのもいいでしょうし、これから成功するところをイメージするのもいいでしょう。いずれにしても試合を前に「成功」をイメージしておくことは、Self-Efficacyの理論の中での「過去の成功体験」を満たすことになりますし。イメージの中で「オレは必ず成功する」というSelf-Talkも織り交ぜていけば「口頭による説得」も使うことが出来ますし、自分の成功する姿をイメージすることはもちろん「Modeling」にもなるし、成功体験をイメージすることによって「生理的状態」もよくなります。というわけで、イメージトレーニングというのはメンタルトレーニングの中でも代表的なスキルと言うわけです。
最後にModelingの効果についてもう少し書きます。Modelingの中には、他者を取り込む外的なものと、自分の姿を取り込む内的なものがあります。他者を取り込むものとしては、先ほど、自分と似た他者のパフォーマンスを見ることで自分の可能性についての自信を高めるものと言いましたが、何もパフォーマンスだけに限りません。態度や行動というのもModelingの対象になります。例えば、試合を前にして、または試合中に、監督やコーチが妙にそわそわしているのと、堂々とベンチに座っているのとでは、選手に与える影響に違いが出ます。つまり監督やコーチが堂々と自信を持って振る舞えば、その態度や行動は必ず選手に伝わるというものです。それから、自分の姿を取り込むSelf-Modelingについては、ビデオを使うのも有効な手段です。過去の成功している自分の映像を見ることによって、その時のパフォーマンス、自信がみなぎっている振る舞いが、自信を高めるのに役立つでしょう。また、ケガをしている選手が、どうしても以前のようなパフォーマンスが出来ず行き詰まっていたとします。もちろんケガの回復状況にもよりますが、過去の成功したパフォーマンスを見ることで、ケガの再発への恐怖などからもう一歩踏み出せずにいる状況から抜け出せるかもしれません。最後に、自分の中で成功へのストーリーを描くことも有効な手段です。「自分は◯◯だから成功する」というストーリーを自分の中でリアルに描いてみることもSelf-Modelingの中の1つです。
今回は、スポーツ心理学の中のSelf-Efficacyの理論と、それを応用したメンタルトレーニングの一例を書いてみました。これを読んでいただいたみなさんが、メンタルトレーニングというのは、スポーツ心理学という学問の中で構築された理論をベースに、それぞれの環境でスポーツに携わっているみなさんがクリエイティブに使えるものなんだと実感してもらえれば本望です。
みなさんはどうやって「自信」を手に入れますか?