Tuesday, September 26, 2006

Achievement Goal Theory

前回はモチベーションについて書きましたが、今回はその続編で、Achievement Goal Theoryというのを紹介したいと思います。この理論はパフォーマンスに影響を与えうる3つの要素、Goal orientation, Perceived competence, Achievement behavior、がいかにそれぞれ関係しているかということを説明しています。この3つの要素はそれぞれ、以下のように分類されます。
  • Goal orientation(目標の指向性)
    • Task (Mastery) oriented goal
    • Ego (Outcome) oriented goal
  • Perceived competence(自分で認識している能力)
    • High perceived competence
    • Low perceived competence
  • Achievement behavior(行動)
    • Effort(努力)
    • Persistence(忍耐力)
    • Task choice(取り組む課題の選択)

パフォーマンス

Task orientedな選手は、自分が取り組んでいる課題や、自分の技術を伸ばすことにフォーカスしています。そのため、自己記録の更新や、自分の課題をクリアすることで達成感を感じます。自分の能力は変化するものだと捉えていて、成功は努力によってもたらされると考えています。達成したか否かというのは自分の中の基準(自己記録など)によって決まります。

一方で、Ego orientedな選手は自分が他者より優れているかどうか、ということにフォーカスしています。能力は生まれつき決まっていて、成功は持って生まれた能力によって決まると考えています。達成感は自分が他者より優っている、または、他者より少ない努力で同等の成果をあげた、と認識することによってもたらされます。

当然、Task orientedとEgo orientedの選手には行動に違いが出ます。例えば、Task orientedの選手は新しい技術や戦術を身につけることに関心を持っているので、より高いレベルの課題を選ぶ傾向にあります。能力は変化しうると捉えていて、かつ成功は努力によってもたらされると考えているので、目標達成のために努力を惜しまず、辛抱強く挑戦を続けます。このタイプの選手は、自分の課題をクリアしたり、過去の記録を更新することで達成感を感じるので、往々にしてポジティブで、高い自信を持っていられます。

一方、Ego orientedな選手は自分の能力が高いと感じている時(HPC: High Perceived Competence)と、低いと感じている時(LPC: Low Perceived Competence)で、行動に違いが出ます。自分に能力 があると感じているアスリートは、自分に能力があることを見せつけたいため、比較的簡単な課題を選びます。達成のための努力はあまりしません、なぜなら彼らは能力は生まれつき備わっているものと捉えてて、自分には能力があるというところを見せたいからです。彼らは自分の課題が成功しそうだと思っているうちは、逆境にも耐えられますが、一旦雲行きが怪しくなると、その忍耐力はもろいです。セルフイメージはポジティブで、自信も持てていますが、同時にもろさも兼ね備えています。

しかし、Ego orientedの選手が自分に能力を感じていないとき、彼らは極端に高いレベルか極端に低いレベルを選びます。なぜなら、極端に低いレベルなら必ず成功が期待出来るし、極端に高いレベルなら、失敗しても他の選手も同様に失敗する可能性があるので、自分が能力不足だと見られる危険性が少ないからです。このタイプのアスリートは、他者との競争の中で自分を見てる上に、自分の能力に自信がないため、自己疑念を抱きやすく、セルフイメージもネガティブで、努力や辛抱強さも期待出来ません。

現実問題、アスリートは内発的、外発的モチベーションと同じように、このTask、Egoも両方持っていると言えるでしょう。しかし、Ego orientedに偏ったアスリートは、自分の能力が高いと感じているうちは、行動やパフォーマンスに悪影響は及ばさないかもしれませんが、彼らは常に他者との比較で自己を評価する傾向があります。つまり、たとえ自己ベストを出したり、以前より技術や記録が進歩したとしても達成感を得られない可能性があるということです。なぜなら、自分がベストを尽くしても相手がそれより優っていたら、結果としては相手に敗れることになるからです。そのためEgo orientedの選手は、自信を失う危険性が高く、努力や忍耐力を見せることもなくなって、ついにはパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性が出てきます。

この理論は、指導者には大いに参考になるところだと思います。実際、勝負の世界では「こいつに負けてたまるか」というEgoの部分があるのは当然ですが、長い競技生活、常に相手に勝てるとは限りません。特に、相手のパフォーマンスは自分達のコントロール出来ない範疇であり、自分達がコントロール出来るものは努力であったり、プロセスであったりするので、日頃から、チームとしても、個人としてもTaskにフォーカスした目標を設定したり、個々の選手がそれぞれのレベルで進歩を見せたらポジティブなフィードバックを与える必要があるでしょう。

実際問題、スポーツ現場でこの理論を応用するとしたら、「オマエはEgoだからTaskにしろ」というようなアプローチではなく、Egoのアスリートが、自信を失ったり、ネガティブな感情を持ったりする危険性を軽減するために、監督、コーチがTaskにフォーカスしたアプローチを浸透させるという形になるでしょう。例えば、試合には負けたけど、ディフェンス面ではダブルプレーを3つ決めたので、その点は内野手の守備力向上に対してプラスの評価をする、とか、今日は内野でいくつかのエラーが出たけど、いずれも外野手の素早いバックアップのおかげで傷口が最小限で済んだとなれば、外野手のカバーリングへの姿勢を評価するべきでしょう。

さて、今回もモチベーションに関わるトピックで書いてきましたが、いかがだったでしょうか?前回の内発的、外発的の話よりちょっと複雑だったかもしれませんが、アスリートの行動パターンを把握するには、意外と役に立つ理論だと思います。いつものように、素朴な疑問やコメントをお待ちしています。

Friday, September 15, 2006

なぜスポーツに向かうのか?

みなさんご無沙汰してます。
週一回は更新します、と豪語してからはや1ヶ月。月日が経つのは早いもんですねぇ。さて、張り切って再開したいと思います 笑

ところで、みなさんはなぜスポーツに向かうのでしょうか?この問いにはいろんな答えがあるでしょう。「好きだから」というシンプルなものから、「勝負ごとで他人に勝ちたい」、「目立ちたい」、「難しい技が出来るようになりたい」などいろいろな要素があるでしょう。つまり、この「なぜ?」という問いの答えがモチベーションなわけです。 実際には、この「なぜ(Why)?」に「どのくらい(How much)?」を加えて、その選手のモチベーションの方向性や程度を把握することになりますが、今回はその「なぜ(Why)?」を分析していきましょう。

では、そのなぜ(Why)ですが、「競技そのものが好きだから」、「競技そのものが楽しいから」という選手は内発的動機(Intrinsic Motivation:IM)によって競技に取り組んでいることになります。それに対して、外発的動機(Extrinsic Motivation:EM)があって、このEMはさらに外的規制(External Regulation)、取り入れ(Introjected Regulation)、同一視(Identified Regulation)の3つに分けられます。それぞれ説明しますと、
  • 外的規制(External Regulation)とは、外部の報酬、お金や賞品によって動機づけされることです。
  • 取り入れ(Introjected Regulation)とは、自分の中で「〜しなきゃいけない」と思うことから競技に取り組みます。これは一見IMに見えますが、結局、自分の中で自分に課したルールのようなものに左右されているのでEMになります。このタイプの選手は、もし練習をサボると罪悪感を感じるので、練習に向かいます。
  • 同一視(Identified Regulation)とは、自分から取り組んではいるのですが、そこには楽しみや喜びを見いだせていない状態で、単にかっこいいからといったような理由で競技に取り組んでいます。
そして、IMにもEMでもなく、何で競技に取り組んでいるか分からないという、非動機づけ(Amotivation)という状態があります。これは「何をやってもダメだ」という考えになってしまう学習性無力感(Learned Helplessness)に繋がる可能性があります。

今までのところを表にまとめますと
  • 非動機づけ(Amotivation)
  • 外発的動機(Extrinsic Motivation)
    • 外的(External Regulation)
    • 取り込み(Introjected Regulation)
    • 同一視(Identified Regulation)
  • 内発的動機(Intrinsic Motivation)
この表では、下に行けば行くほど、自己決定(Self-determination)による行動であると言うことができます。つまり、自分の意志が行動に反映されているということです。ちなみに、自己決定が一番反映されている内発的動機(IM)に影響を与える要素として以下の3つが挙げられます。
  • コンピテンス(≒能力:Competence)
  • 自律性(Autonomy)
  • 他者との結びつき(Relatedness)
つまり、選手が自分の能力を感じることができ、選手自身が自律性を持てて、なおかつ他者(コーチやチームメート)との結びつきを感じられる環境を作ることによって、選手は自分の競技そのものに興味を持って自発的に取り組めるようになる、つまり競技に対して自分の内側からモチベーション(Intrinsic Motivation)が高まっていくということです。

では、外発的動機(EM)はダメなのか?ということですが、必ずしもそうとは限りません。例えば、外発的動機(EM)によって、その選手が自分の能力(Competence)を認識出来る場合、例えば、スポーツ奨学金をもらうことによって、選手が自分の実力を客観的に捉えられるような場合などは、外発的動機(EM)はその選手の内発的動機(IM)を助長する働きが期待出来ます。しかし、選手が「奨学金をもらうために頑張る」というふうになってしまった場合は、報酬のために競技に取り組んでいるということになるので、自己決定(Self-determination)が弱まった行動になってしまい、つまり内発的動機(IM)を阻害することになってしまいます。

さて、みなさんがスポーツに向かう理由はなんでしょうか?


追:今回は少し専門用語が多くなってしまいました。当然、読者にわかりやすく伝えられるように努力をしたつもりですが、実際どんなもんでしょう?このブログは読者の方とボク、または読者同士の書き込みのキャッチボールで成り立っているものなので、わからないところ、リクエストなどがあったら遠慮なくコメントして下さい。

追2:この書き込みは基本的には今、授業でやってる教科書の内容をベースにしていますが、専門用語の日本語訳には「スポーツ心理学 ハンドブック 上田雅夫」(2000、実務教育出版)を使わせてもらっています。もし、対訳が不適当だと気がついた方は是非お知らせください。

ちなみに教科書: Williams, J. M. (2006). Applied sport psychology: Personal growth to peak performance (5th ed.). McGraw-Hill.